あなたの大切な人の死期が迫っていたとしたら、あなたはその方と、最期の時間をどのように過ごしたいですか?
老衰や末期がんなど、さまざまな事情で自宅で療養される方がいます。このまま慣れ親しんだ自宅という環境で過ごすべきか、病院や施設という医療従事者がいる環境で過ごすべきか、「そばにいたい」という思い・葛藤に苦しむ方が多いことと思います。
家で看取ってあげたいけど、果たして介護できるだろうか?病院に任せればよかったと後悔しないだろうか?と、誰もが不安に思い、悩むことですよね。
在宅での看取りは、あなたの大切な人が最期を迎えるにあたり、あなたと大切な人にとって、とてもやさしい選択です。決して一人孤独を抱えることはなく、在宅診療医や訪問看護師、ケアマネージャーなどのチームとともに、その方が愛した”自宅”という環境で共に過ごし、最期を見送ることができるのです。

私は11年間の看護師経験の中で、3年間訪問看護を従事し、ご自宅でのお看取りに数多く関わってきた、うにぺこといいます。
在宅の看取りの中で、死を迎える恐怖や家族の愛情、葛藤など、さまざまな感情の中で看護師として関わりました。その中で、在宅の看取りは、病院や施設とは異なる、その人らしい最期を迎えられるやさしい選択である、と学ぶことができました。
今回は、在宅のお看取りを選択するにあたって
- 在宅の看取りは後悔しない選択である理由5選
- 在宅の看取りで後悔しないようにするためのポイント
- 在宅の看取りについて看護師として思うこと
について分け、詳しく解説していきます。
この記事を読むことで、なぜ在宅の看取りが「後悔しない選択」なのか、そして「やさしい選択」である理由がわかります。
あなたの大事な人を見送るその時に、どのような選択をすれば良いのか。後悔のない最期を過ごすための、ひとつのヒントとなるはずです。
在宅の看取りは後悔しない選択である理由5選
在宅のお看取りは後悔しない選択だと、冒頭でお伝えしましたが、「在宅の看取りとはどんなものなのか」、ご存知ない方も多いかもしれません。
ここでは、在宅の看取りが後悔しない理由について
- 国内での在宅看取りは増加している
- 本人、家族の希望を叶えることができる
- 最期まで自宅で過ごせる安心感を得られる
- 豊富な訪問介護・医療サービスを利用できる
- 経済的な負担を抑えられるケースがある
こちらの5つに分け、解説していきます。
国内での在宅看取りは増加しているから
現在、どのくらいの人数の方が、在宅での看取り、最期を選択されているのでしょうか?
国内の医療情勢では、2025年現在の具体的な数値は発表されていませんが、2020年新型コロナウイルスによるパンデミックにより、病院での在院日数の減少、また在宅医療のニーズが増加しているのが現状です。

厚生労働省による資料・上記グラフのように、2020年で200万人を超え、以降現在までも在宅での看取りの割合は増加傾向です。
また、少子高齢化が深刻化し、年間の死亡者数は2040年に最も多い168万人になると見込まれ(参考資料:厚生労働省 平成の30年間と、2040年にかけての社会変容 より)、病院、施設、自宅での看取りの対応が、国としても重要な問題となっているのです。
在宅での看取りも、より安心し安全に皆が選択できるようにと、訪問診療、訪問看護や介護サービス等のサービス事業所が増え、地域医療の活性化に力を入れているのが現状です。
在宅での看取りを選択する人がこんなにも増えているとを知ると、自分の希望、選択は叶わないことではないと、よくわかりますね。
本人、家族の希望を叶えることができるから
在宅での看取りは、「家族が主」として介護を行い、大切な人が最期まで自身の希望を叶え過ごすことができます。
叶えたい希望は、きっと毎日当たり前にしていること
では自宅で叶えられる希望とは、どんなことでしょうか?
訪問看護師をしていて一番多かった希望は、「毎日当たり前に行っていること今日も続けること」でした。
たとえば、朝起きたらひと口だけでもコーヒーを飲む。新聞を読む。窓から見える庭をみる。家族と話す。
もちろん、病院や施設の中でもできることはありますが、自宅だからこそ感じる嬉しさ、変わらない日常を感じることで、死期が迫る恐怖や苦痛が和らぐとおっしゃる方が多かったのです。
普段なかなか気づけない、毎日のルーチンが、実は本当の幸せなのだと気づかされる瞬間でした。
家族がケアできたと実感できる
在宅での療養は、家族が主の介護になってきます。
終末期は、本人にとっても、支える家族にとっても、後悔したくない最期の限られた時間です。看取られた後、残されたご家族が「ケアできた実感」「一生懸命にやりきれた」を得られることも、在宅の看取りの特徴です。
病院や施設での療養は、このご家族の「ケアができた」という実感をどうしても覚えにくいのが事実です。
残されたご家族が振り返ったときに、後悔しないかどうか。
そう考えると、在宅でのお看取りは本人だけでなく、ご家族のきちんとお別れをしたいという希望を叶えることにつながるのかもしれません。
最期まで自宅で過ごせる安心感を得られるから
終末期は、体調の悪化、医師などの医療従事者からの話などによって、心身ともに不安になりやすく、痛みが伴うこともあります。
そんなとき、慣れない気の遣う病院などの施設ではなく、慣れ親しんだ自宅で療養できるということは、大きな安心感につながりますね。
実は自宅で最期まで過ごしたい人は多い
日本財団が行った「人生の最期の迎え方に関する全国調査結果(2021年3月)」では、人生の最期を迎えたい場所「自宅」と答えた人が58.8%、約6割にのぼったといいます。
多くの方が自宅で最期まで過ごしたい、と願っているのが現状。そう、あなたの周りだけではないのです。
自宅で過ごせることがうれしい、安心だと期待している人が多いことが表われていますよね。
豊富な訪問介護・医療サービスを利用できるから
需要が高まる在宅療養。現在は自宅で療養を続ける上で、さまざまな医療・介護サービスを受けることができます。
ここでは、多くの方が利用する、主要な訪問サービス4つについてご紹介させていただきます。
訪問診療
医師が自宅に訪れ、診療を行う医療サービスです。
終末期に入ると、全身の体力低下などの事情により、通院が困難なケースが多いです。訪問診療により、病状の管理や薬の処方、緊急時の対応などを自宅で受けることができます。
末期がんでの療養の場合、がん性の疼痛が顕著になってくることが多いです。訪問診療医より麻薬鎮痛剤の処方をしてもらえることもあります。近くの訪問診療所を調べどんな患者さんへの対応ができるのか、確認するとよいですね。
訪問看護
看護師が自宅に訪問し、医師の指示のもと点滴や注射・服薬管理などの医療的ケアや、日常生活の支援を行うサービスです。
在宅で療養していると、「急に痛み出した」「なんだが苦しそうだ」などの症状の変化に、ご家族が一番に気づくことになります。大切な人の苦しむ様子をみることは、ご家族にとっても苦しいこと。
近年では、24時間緊急対応ができる訪問看護ステーションが増加しています。平日の日中以外でも、夜間、早朝、3連休の間など、いつでも相談や必要に応じて訪問看護サービスを受けることができます。
医師との情報も共有し連携を図るため、安心して自宅で療養することができるサービスです。
また、ご家族が主となる在宅療養では、ご家族への介護指導も必要です。訪問看護師より介護場面での具体的なお悩みへ、指導・相談を受けることができます。
訪問介護
介護スタッフが訪問し、日常生活でのケアをサポートしてくれます。
たとえば、おむつ交換や更衣、清拭などの身体的なケア。ご家族が介護をする上で負担が大きい部分になりますね。
サービスを1日1回~3回など回数の調整をして、訪問介護を受けている時間はご家族が休憩をする。そのようにサービスを使いながら、生活することもできます。
ご家族の介護負担を直接的に和らげることができる、そんなやさしいサービスです。
訪問入浴
自宅の浴室での入浴が困難な方へ、専用の浴槽を持ち込み、看護師と介護スタッフにて安全に入浴を提供するサービスです。
「お風呂に入る」ということは、とても気持ちがよく、私たちは毎日当たり前に行っていることですよね。多くの方がお風呂に入りたいと希望があるものの、終末期になると体力が低下し、自宅のお風呂まで移動できない、浴室の中で十分に動けず危険、などの状況になることがほとんど。入浴の壁はとても高いのです。
訪問入浴サービスがあると、苦痛を最小限に全介助で入浴をすることができ、身体を清潔に、あたため、リラックス効果も得ることができますね。
※終末期は、血圧が低い、痛みが強い、などの事情で入浴が困難とされる場合もあります。医師の指示を確認して安全に実施できるように調整が必要です。
経済的な負担を抑えられるケースがあるから
大切な人のそばでケアしたい、看取ってあげたい。そんな思いで毎日必死に介護に向かっていても、療養が長くなればなるほど、療養にかかる医療費・介護費用は増加し、経済的に深刻な問題となることがあります。
その方の病状などにより一概には言えませんが、病院に入院する、施設に入所するよりも、在宅療養費用の方が安くなるケースもあります。
お手持ちの医療証・介護負担割合証の確認(自己負担が1~3割のいずれか)、また医療福祉証などの医療費控除を受けているかなど、必ず確認しましょう。
ケアマネージャーがいれば、ケアマネージャーにケアプランの確認、長期的な介護費用も相談していきます。必要最小限のサービスで、コストを抑えつつ安全に療養を続けられるようにできればよいですよね。
各自治体によって、おむつの支給などのサービスもありますので、お住まいの地域で自分たちが受けることのできるサービスを確認することも大切です。
在宅の看取りで後悔しないためのポイント
それでは、在宅での看取りを後悔しないようにするには、どのように行動していけばよいでしょうか。
ここでは、在宅の看取りで後悔がないようにするポイント
- 一人で(家族だけで)抱え込まず、外部のサービスに相談をする
- 最期を迎えるにあたっての本人・家族の希望をお互いに確認する
この2つのポイントに大きく分け、訪問看護の中で実感したことも踏まえ、解説していきますね。
一人で(家族だけで)抱え込まず、外部のサービスに相談をする
終末期の介護の毎日は、とても大変なことです。悩んだり、大変だと感じたことは、周囲の人や外部の医療従事者、ケアマネージャーへ積極的に相談をしましょう。
在宅の看取りは家族があって成り立つ
訪問看護師をしていて、在宅での看取りを選択されたご家庭に多いと感じたことは、主介護者であるご家族が介護を抱え込みすぎてしまう、ということでした。
大切な人に精一杯のケアをしてあげたい。そう強く思う人こそ、介護負担を一人で背負ってしまうケースが多いです。
在宅療養は、介護するご家族があって成り立つものです。ご家族の健康が損なわれてしまうと、在宅療養が成り立たなくなってしまいます。
介護の中の具体的なエピソードを話す
「介護って大変ね」と多くの人が言ってくれると思いますが、実際どんなことが大変なのか?負担になっているのか?具体的な部分に共感してくれる人は、なかなか近くにいないかもしれません。
意外と介護するご家族自身が、何が大変で負担になっているのかと、気づけていないこともあります。毎日があっという間に過ぎていくため、「こうしたらよかった」などマイナスに振り返ってしまいがちになります。
せっかく訪問サービスを受けているならば、訪問した医師や訪問看護師、介護士たちに最近のエピソードをお話してみましょう。
たとえば、「最近夜痛みが強く眠れないことがあるよう。私も心配で眠れない」というエピソードがあったとします。この様子から、医師・看護師が不眠の原因である痛みに対してのアプローチをしてくれるかもしれません。日中家族が休息をとれるよう、ケアマネージャーがサービスの追加・調整できるかもしれません。こんな風に具体的なエピソードが積み重なり、介護負担を一つずつ解決へつなげることができるのです。
介護に孤独を感じることなく、あなたの大切な人に関わるすべてのスタッフが、チームでみてくれている。そんな風に構えて、気負いすぎず過ごしてくださいね。
最期を迎えるにあたっての本人・家族の希望をお互いに確認する
終末期の限られた期間を過ごす中で、本人、そしてご家族がお互いにどう過ごしていきたいのかを確認しましょう。
終末期の状況の変化
終末期は、体力の低下や痛みなどの影響で、食事は徐々にとれなくなり、身体は瘦せていく。つい苛立ったり、泣いたりと感情的になってしまう。夜間眠ることができず、お互いに睡眠不足。このように支える家族と共に、お互いに抱える負担が大きくなるような状況も起こりやすいです。
人の予後とはだれにもわからないものですが、死期が迫っていると分かったその時から、本人の希望をよく聞き、話し合うことが大切です。
毎日の希望や治療における希望、看取り後のことも含めて確認し合う
たとえば、毎日これだけは食べたい。少しでも庭に出て日光に当たりたい。などの日常生活上のルーチンでもよいですし、鎮痛剤は積極的に使って穏やかに過ごしたい、といった治療・緩和への希望の確認もとても大切です。
また、看取り後の流れも可能であればご家族でよく話し合われるとよいです。訪問看護師による死後処置(エンゼルケア)を受けるのか、葬儀屋に一任するのか、どこの葬儀屋にするのか、など。
なかなか話しにくい内容だと感じる方も多いと思います。疑問に思ったこと、直接話しにくいことは、医師や看護師などにも頼ってみましょう。医療従事者の立場から、うまく話を聞いてもらえることもあります。
在宅の看取りについて看護師が伝えたいこと
在宅での看取りについて、後悔しないやさしい選択であると、お伝えしてきました。
ここで私が訪問看護師として看取りの現場に立ち会い感じたこと、伝えたいことについて、解説させていただきます。
家はみんなの大切な場所
私は訪問看護師として、在宅でのさまざまなお看取りの場面に立ち会いました。
涙にあふれるお別れの場面もあれば、「立派だった」と笑顔でお別れをする場面も。お看取りの場面は、その方、そのご家庭によりさまざまでした。
これから在宅で看取りをしていく方は、どんな最期になるのだろうと、心配になりますよね。
ただ、一つ共通してわかったことがあります。
それは、どんな方にとっても、「家は大切な場所である」ことでした。
自分の過ごしてきた思い出の中で過ごせることは、本当に特別なのです。
とあるご家族様がお看取りの際におっしゃった、印象的な言葉がありました。それは「この家で生まれ、この家で生涯を全うした。こんなに幸せなことはないと思っていると思う」という言葉でした。
家という特別な場所で生涯を閉じること。それは、家族からの安らぎを感じることができるやさしさなのかもしれない、と学ぶことができました。
最期のケアをご家族とともに
在宅での看取りで後悔をしないために。きちんとお別れができるように。訪問看護師とともに、ご家族が最期のケアである死後処置(エンゼルケア)を行えるとよいと考えています。
看護師とともに、身体を拭く、お顔や胸だけでも構いません。男性であれば、毎日使っているシェーバーを使って髭剃りをしてもよいですし、女性であればいつも使っていたお気に入りの化粧品でメイクして、新たな出発へ向かえるように整えてあげることができます。
ご家族とともに、思い出を語りながら最期をケアをさせていただく時間は、看護師としてとても貴重な時間でした。残されたご家族にとっても、気持ちの整理がつき、「ケアできた実感」と「一生懸命にやりきれた」という思いをもって、旅立たせてあげることができる貴重な場であると考えます。
私たち医療従事者は、みなさんと同じチームの一員です。どうか、小さなことからご相談させていただき、在宅での療養生活のサポートをさせていただきたいと思っています。
在宅の看取りは後悔せずにきっと叶えられる
在宅の看取りは後悔しない、そのやさしい選択である理由、後悔しないポイント、看護師としての体験を交えお伝えさせていただきました。
もちろん、事情により自宅でお看取りができない方もたくさんいらっしゃいます。独居で介護者がいない方、同居しているご家族の事情など、さまざまです。在宅の看取りがすべて良い、と言いたいわけではありません。
しかし、在宅での看取りを望んでいる人々に、「自宅で看取ってあげたかった」と逆に後悔をしてほしくない、と感じています。
あなたの周りにも、支援してくれるサポートがたくさんあるはず。あなたの大切な人とよく話し合い、在宅で看取るやさしい選択を、選んでみませんか?
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